よく昼休憩で行ってた弁当屋さんを見習いたい

「いや今おれ頭おかしくなってるから!」

以前、都内のビルで働いていた時、近くの弁当屋さんでそんな言葉を聞きました。9時半から18時の一般的な勤務時間。コロナ禍の前でしたので、出社していました。

避けては通れない問題がありました。昼食をどうするかという問題です。コンビニで済ませても意外とお金はかかってしまいますし、不定期で胃袋が「お菓子!」「ラーメン!」と狂うので、出費については熟考が必要でした。

それらを踏まえ、昼食の時によく行っていた弁当屋さんがありました。その弁当屋さんは大変素晴らしいコストパフォーマンスで、ごはん大盛り無料。具材もちくわ天やら唐揚げやらとダイナミック。味噌汁付き。日替わりで果物も、ふりかけまで選べる。価格は驚異の500円。覇道です。令和の今では考えられない、覇道をゆく弁当屋さんでした。

弁当屋さんは五十~六十代ぐらいの夫婦が切り盛りしていて、雰囲気は素朴でした。女将がレジと商品受け渡し、大将が調理と電話受付をしていました。奥にスペースはあったと思いますが、客から見える範囲は本当に小さく、六畳ほどだったと思います。カウンターがあり、カウンターの左右には弁当が積み重ねられ、真ん中ににこやかな女将。そして後ろで割烹着を着た大将が鍋を振るっています。

普段は素朴な弁当屋も、昼時は違いました。私を含めた社会のゾンビたちが、暑い夏の日光に溶かされながらヘドロのように押し寄せ、ひしめき、呻きます。

鮭弁当。唐揚げ弁当。
果物はりんご。ふりかけは味道楽。
女将が注文を間違えます。
電話が鳴り、大将が出ます。
ハンバーグ弁当。鶏の照り焼き弁当。
女将が注文を間違えます。
果物はマスカット。ふりかけはのりたま。
電話が鳴ります。大将が出ます。大将は鍋を二つ操っています。
私は弁当の名を口にします。同僚もなにかを言っています。
女将が大将に話しかけようとして、電話が鳴ります。
大将が電話を取り、叫びました。

「ああー! いや今おれ頭おかしくなってるから! あとで!」

大将が電話を切りました。私はお会計をし、弁当を渡されました。女将は「また来てくださいね」とにこやかに言いました。弁当屋を出ました。同僚と顔を見合せ、無言で職場に戻って、弁当を食べました。美味しかったです。

仕事をこなして、それなりに残業して帰りました。翌日も出社して、また弁当屋に行きました。昼時。弁当が飛ぶように売れます。電話が鳴ります。買います。戻ります。食べます。美味しい。翌日。飛ぶ弁当。電話。ふりかけ。りんご。買う。戻る。食べる。
日々が繰り返されます。
弁当屋さんも、ずっと弁当を作る毎日だったでしょう。大変な時もあったでしょう。でも角にひっそり収まったひじき煮も、ちくわ天も、果物のオレンジも、のりたまのふりかけも、味噌汁も。色とりどりで、温かくて、美味しかったです。

たまにはあの大将みたいに、感情をぶちまけてもいいのかも。そう思って、会議で思いの丈を主張しました。論破されました。日本は平和でした。

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